みすや忠兵衛は、文政二年より京都松原の地で針屋を営んでおられます。江戸時代から続く秘伝製法をもとに針職人が作り上げるお針さんです。みすや忠兵衛では秘伝製法を代々受け継ぎながら、時代の求めにあったみすや針の考案や改良も行ってこられました。現在、みすや針の屋号を掲げる針屋はたいへん少なくなりましたが、忠兵衛印のみすや針は今もかわらず職人から一般の方々まで幅広くご愛用いただいております。 きらびやかな貴族の衣装から庶民の晴れ着、普段着まで衣類のほとんどがこのお針さんで作られてきました。縫い人は、纏う姿に想いを馳せながら、ひと針ひと針縫い上げる。ここには、日々の生活を質素に押さえてまで衣装に財を費やす京都の美意識があります。みすや針はそうした美意識に応える針でなければなりませんでした。それは縫い人の負担を少しでも軽減し、縫いやすい針であること、折れたり曲がることの少ない丈夫な針であること、そして素材を傷めない針であること、素材の良さ(光沢、柄、張り)を引き出す縫いを行えることでした。このどれかひとつでも欠けてしまうと、縫い人の想いを汚し、纏い人の晴れ姿を台無しにしてしまうのです。たかが針と思われる方も多いでしょうが、こうした気構えで忠兵衛号のみすや針をおつくりしてまいりました。 注:「着倒れ」とはその言葉通り、日々の食費を削ってでも服にお金をかけること。 |
針の素材は鋼です。この強固な素材の縫い針は、堅いばかりでは役に立ちません。縫うときの針の運びにしなやかな弾性が要求されます。そしてそのしなやかの中にも腰の強さがなければなりません。もちろんすぐ折れたり、曲がるようでは縫いにくい針となってしまいます。堅いということはもろい欠点をもち、しなやかということは曲がる欠点をもっています。ひとつのものに、正反対の性質を兼ね備えるということはとても難しい問題です。この難題を解決する方法を焼きいれ法に見出し、今日まで続く伝統針となりました。 |
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みすや針の針穴は、極限まで正円に近づけています。細い鋼の胴体にどれだけ大きな穴を開けることができるか、これも針職人の腕の見せどころです。そしてこの小さな針穴の内側まできれいに磨き上げ、滑らかなまん丸のフォルムに仕上げます。針穴が大きいほど糸は通りやすい。そして丸いフォルムは糸通しのときの糸先の割れを防ぎます。また針穴が丸いということは、糸の太さと均一になることですから、糸遊びが起こらず、針仕事の途中で糸がよじれることもありません。針穴と糸がぎりぎりに接していますが、内側を滑らかに磨くことで糸切れを防いでいます。 |
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美しい針のシルエット、それは針穴から針先に向かってなだらかに細くなっている姿と考えます。針先は極端に細くなる姿では、生地に抵抗が生まれ、布目に傷をつける(生地の織糸を割ってしまう)原因にもなってしまいます。なだらかに細くなる姿だと、生地の抵抗をほとんど感じず、運針が大変スムーズです。 |
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針づくりの製作では、表面を磨きあげる仕上げ作業があります。現在一般的な磨きは横磨きですが、みすや針は縦磨きで仕上げてあります。横磨きならば、ローラーで効率よく磨くことができますが、針入れの方向に対して直角に磨くことになりますから、生地の抵抗を生む磨き方といえます。一方、縦磨きを施すと針入れの向きと同じ方向に肉眼では見えない繊細な縦筋が入ります。実はこの微細な縦筋がガイドとなって、生地の進みがよくなるように仕上げられているのです。この磨きは肉眼で見えるほど荒くてはだめ。生地を痛めるような均一感のない磨きでもだめ。まん丸の胴体が変形しないよう、均一に0.00ミリ単位で磨きあげなければなりません。 ぐっと息を止めて、まっすぐ一定の力加減で磨きあげ、いぶし銀の照りを出す。磨き作業は、熟練の針職人でも呼吸ひとつ緊張する作業なのです。 |
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最後の工程であるお包までひとの手と目で行っております。 |
みすや忠兵衛さんでは毎年12月8日は針供養を行っておられます。折れたり、曲がったり、役目を終えたお針さんに感謝のきもちを込め、そして来年のお針しごとの上達を願って、針のご供養をされています。みすや忠兵衛のスタッフにとって針供養の日は、この一年の感謝とこれから一年への期待という仕事納めと初詣のお参りが一度に来たような、とても身の引き締まる一日となるそうです。 例年、針供養の日は手芸、裁縫に従事する方々が集まり、針の労をねぎらい、技芸の上達をお祈りされています。このような行事一つにしても針に対しての思いやりが感じられます。 JSHOPPERS.comでご注文頂いたお客様に限り、お客様がご希望の場合はお客様負担で11月末日までに役目を終えたお針さんをお送り下されば、お客様が不要になった針を回収し、SHOPPERSのスタッフがお客様の代わりに供養致します。 |