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キーワードで知る、日本の工芸と伝統文化。01「漆」

日本美術を支えてきた「漆」。

漆の木の樹液で、天然の塗料としてだけでなく、接着剤の役目も果たす「漆」。現存する最古の漆製品は、なんと6500年も前の縄文時代にまでさかのぼります。やわらかく、そして深みのある艶をもたらす漆との出会いは、その後の日本美術にも多大な影響を与えました。漆器に用いられる蒔絵(まきえ※1)や螺鈿(らでん※2)、沈金(ちんきん※3)といった伝統的な装飾技法にも、漆の存在は欠かせません。また、日本の漆製品は海外にも輸出され、マリア・テレジアやその娘のマリー・アントワネットといったヨーロッパの王侯貴族にも愛用されました。現在も越前漆器や岩手の浄法寺漆器、香川漆器など、全国各地に漆器の産地があり、その伝統と技術をいまに伝えています。

  • ※1 漆器の表面に漆で文様を描き、その上に金などの金属粉を蒔いて定着させる技法。
  • ※2 貝殻の真珠質を研磨し、細かく切ったもので漆器の表面を装飾する技法。螺は貝、鈿は散りばめる意味を持つ。
  • ※3 漆器の表面にノミで図柄を彫り、出来た溝に金迫や金粉を押し込んで絵や文様を表現する技法。

生活の道具としての漆器。

漆製品は美術品としてのイメージが強いですが、実際に使ってこそ分かる魅力もたくさんあります。器に直接、口を付けて食事する習慣を持つ日本人にとって、天然木と漆で作られた漆器は丈夫で使いやすい日用品でした。手触りがよく、やわらかな口当たりも魅力のひとつ。加えて、漆器は熱伝導率が低いため、熱い汁が入った器を手に持っても熱くなく、冷めにくいのも特長です。また最近の研究により、漆には高い抗菌効果があるという伝承が科学的にも実証されました。天然塗料のうえ、抗菌作用もある漆を使った漆器は、日々の生活に最適な器といえるのです。

面倒? 漆製品の取り扱いについて。

漆器は取り扱いが面倒というイメージがありますが、そんなことはありません。洗い方も水につけっぱなしにしなければ、普段通りで大丈夫。ただし、食洗機による高温の水は器の形を変形させる恐れがあるため、手洗いで優しく洗うこと。洗った後は水気をしっかり拭き取り、直射日光が当たらない場所に保管しましょう。品質にこだわった漆器の場合、扱い方にさえ注意すれば、親から子へ、代々使い続けることも不可能ではありません。祝いの席はもちろん、日々の生活に漆器を取り入れることでテーブルが華やぎ、ゆたかな食の時間を演出してくれるでしょう。

螺鈿(らでん※2)
蒔絵(まきえ※1)
日々の生活の漆器

日常に上質をプラスする漆器