「ポットを作ってみましょうか」。村上躍さんはそう言って、初めて工房を訪れた私たちに作業風景を見せてくれました。クールさと温かさが共存する躍さんのポットは、うつわ好きなら誰もが憧れる逸品。それをいきなり惜しげもなく…いいのですか?そう心の中でつぶやいたのもつかの間、次の瞬間には嬉しくてたまらない気持ちが言葉となって溢れ出た。「わーい、お願いします!」。ポットの底の部分から本体、蓋、茶こし、持ち手、そして注ぎ口…。流れるような所作で道具を扱い、ひとつの工程が終わると使っていた道具を決められた元の位置にサッと戻す。
それは無駄のない作風で知られる躍さんらしい、実に美しい仕事ぶりでした。
一段一段、カタチを確かめながら丁寧に。表面に手跡が残る躍さんのうつわは“手びねり”という技法で作られます。先日、作業中はいつも何を考えているのですか、と本人にたずねてみました。すると「カタチを一番に考えていますね。手びねりはひとつひとつが初めてという感覚。同じうつわを作る場合はサイズを気にしつつ、時にはこうすると面白いかも、とカタチで遊んでみることもあります。ろくろだと手が覚えていて、半分眠りながらでも同じものがいっぱい出来ていた、なんて話を聞いた事もありますけど(笑)」と茶目っ気たっぷりに。気負わず、自然の流れのなかで作られる躍さんのうつわたち。それらはまるで優しく手招きするように観るものを引き寄せ、無意識のうちにすーっと手に取らせてしまうのです。
4月の「季の雲」は2年ぶり4回目となる村上躍さんの展覧会。いよいよ、開催です。
村上躍 Murakami Yaku
- 1967
- 東京都に生まれる
- 1992
- 武蔵野美術大学短期大学部専攻科工芸デザインコース卒業
- 1998
- 陶器制作を始める