松本市にある三谷さんのご自宅兼工房には、これまでも何度か訪ねたことがあります。その度に工房が広くなっていたり、キッチンが別棟に移動していたり。少しずつ変化があって、お邪魔する度に「わぁ~っ」とテンションが上がってしまいます。さりげなく置かれているセンスの良い古道具や、壁に掛けられている不思議なカタチのオブジェに興味がどんどん沸いてきて、「これは何ですか?あれは?」と三谷さんを質問攻めにしてしまう(笑)。どんな質問にも優しく答えてくださる三谷さんの人柄に心が温まり、ゆったりとした気持ちになったところで、「あっ、いけない。仕事、仕事」と自らを奮い立たせるのだ。
やわらかな雰囲気を漂わせる三谷さんだけれど、彼の手を見る度に思う。これは作り手の手だ、と。木を担ぎ、木を割り、木を削り、木を撫でている
人の力強い手。そして、トレードマークの丸眼鏡の奥には、見たものを自身の作品に反映させる特殊なフィルターを備えた、優しくて真っ直ぐな瞳が輝いています。
「木の器に料理を盛るなんて!」。最初は驚かれる方も多いのですが、使い込み、飴色になった器をご覧になると表情が一変します。私が三谷さんの“木のうつわ”に憧れて、ドキドキしながら初めて購入したのは、大きな山桜のボウルだった。ゴーヤチャンプル・牛肉サラダ ・マーボー豆腐…。このボウルに盛り付けた料理がテーブルに登場すると、家族や友人の顔がたちまち、「おいしそう」の顔になる。
そんな、おいしい思い出が幾重にも重なり、日に日に味わいを増してゆく木のうつわ。今では、毎日、料理を作る私の大切な宝物になっています。
三谷龍二 Mitani Ryuji
木工デザイナー
- 1952年
- 福井市生まれ
- 1981年
- 長野県松本市に個人工房ペルソナスタジオを開設
陶磁器のように毎日の食卓で使われる木の器を提案。全国で個展を開催する一方、立体作品・平面作品も手がける。「クラフトフェアまつもと」や「工芸の五月」の運営に当初より携わり、今年11月に香川県で開催される「瀬戸内生活工芸祭」のディレクターに就任。工芸と暮らしを結ぶ活動を続ける。『木の匙』(新潮社)、『僕のいるところ』(主婦と生活社)、『三谷龍二の木の器」(アトリエ・ヴィ)、『三谷龍二の10cm』(PHPエディターズグループ)など、著書も多数。