導かれるように進んだ職人への道。
それが丈夫な金属だと分かっていても、両手でそっと包みたくなるほどに繊細な銀線が描く、華奢なレース模様。和花とヨーロッパのアール・ヌーボーを彷彿させるデザインとの融合もただただ美しく、こぼれるため息とともにじっと見入ってしまう。
宝飾品とは無縁だった20代の頃、まるで導かれるようにスペインへと旅立った伊庭さん。地中海の町、ベヘール・デ・ラ・フロンテーラでジュエリー作家のマルコ・スアレス氏と出会い、工房に通ううちに金属工芸の世界に魅了されるようになる。すべては必然だったのだろう。帰国後、工芸の職人になる決意を固め、そこで着目したのが日本の伝統的な金属工芸だった。「海外に行くと、外国人の方が日本の技術の素晴らしさをよく知っている。僕も日本の工芸の良さを再発見したいと思いました」。
“自然の美”を追求した作品作り。
現在は金属工芸のなかでも、宝飾専門の飾り職として活動の場を広げる伊庭さん。彼の作品には桜や梅、菖蒲といった日本の四季の花々が多く登場する。「アール・ヌーボーもそうですが、僕のなかでの“美”は自然の花や植物。それを自分の手でどこまで再現できるかがテーマです」。美を追求する作品作りを支えるのが、独学で習得した秋田県の伝統工芸、銀線細工。太さ0.3ミリにも満たない極細の銀糸を寄り合わせ、さらに加工を施した1本の銀線が一枚の葉や花びらへと姿を変える。
「作品は美意識の集大成でありたい」。目には見えない細部にも宿る、高い美意識。高貴な輝きを放つ銀の花は、決して枯れることのない永遠の美、そのものでもあるのだ。