盆地で寒暖の差が激しい京都の気候風土が育んだ素材、“竹”。軽く丈夫な竹は古来より生活の道具に加工される一方、桃山時代に発達した茶道との出会いにより、美術品として花開く。
日本有数の竹の産地である京都、長岡京に工場を構える『高野竹工』。創業より茶道具の制作に携わり、不虔斎(ふけんさい)の 雅号を持つ増田宗陵さんをはじめ、熟練の職人を擁する竹工の一門だ。制作は職人自ら竹林に入り、竹を伐採するところから始まる。「竹林では、繊維が成長した大人の竹を選んで伐採します。竹が成長する過程を見ているせいか愛着が湧いて、破片もなかなか捨てられなくて」と笑う、増田さん。竹工になる前の肩書きは日本画家。両者にはまったく共通点がないように思えるが、「例えば、1本の茶杓の中にも世界がある。日本画と竹、ジャンルは異なりますが、どちらも“間”の取り方が大切だと思っています」。
取材時、増田さんが制作していたのは、茶祖、千利休作の花器「小田原」の写し。木にはない美しい繊維と節からなる竹は、この世に同じものがふたつとなく、また切り方ひとつでその表情を変える。長い年月をかけて創造された自然美に寄り添い、“かたち”にするのが、増田さんをはじめとする竹工の技なのだ。
「竹は加工しやすい素材ではありますが、表現することにおいては形状や節の位置など、制約が多い。しかしだからこそ、それを乗り超えて作品を生み出した時の嬉しさは計り知れません」。そう話しながら愛おしそうに竹を見つめる、増田さんの瞳が印象的だった。